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釧路湿原自然再生事業について
釧路湿原流域では、過去の開発により湿原面積が約2割縮小しているほか、河川の直線化や森林伐採などによる土砂や栄養分の流入による湿原の乾燥化や周縁部の生態系の劣化がおきています。この湿原の環境悪化を食い止め、失われた自然を再生する取組がはじまっています。自然再生は、これまでの環境政策や公共事業にはない特徴を持ち、釧路湿原では次のような枠組みで実施されています。
釧路湿原自然再生協議会
釧路湿原の自然再生を進めるために、自然再生推進法に基づき、2003年11月に設立されました。再生事業の実施者や専門家、流域の利害関係者などで構成され、現在、分野ごとに6つの小委員会と2つのワーキンググループが活動しています。構成メンバーや会議の開催状況、資料等が公開されています。
自然再生の全体像
~釧路湿原自然再生全体構想
釧路湿原の自然再生は、自然再生推進法に基づいて協議会が作成した「釧路湿原自然再生全体構想」(2015年3月改定)に沿って進められています。この全体構想には、自然再生の考え方と10の原則、対象区域、目標、手段と評価手法、役割分担などの基本的な枠組みが記載されています。
釧路自然再生の特徴
釧路湿原では「自然再生」を広く、自然の保全・回復・復元・修復・維持管理・創出などを含む、幅広い概念として扱います。また、過去の公共事業や環境政策と異なる考え方、原則に基づいて実施します。
自然再生の具体的な計画
全体構想を具体化するための事業や取組みは、協議会や専門家の検討を経て地区ごと、分野ごとに「実施計画」を作成して進められます。現在作成されている実施計画は、以下のとおりです。
地域の理解や参画を広げていくために
自然再生に地域、市民の参加や環境教育が重要であることは、当初から議論されてきました。釧路湿原自然再生全体構想においても、地域産業との両立、多様な主体の参加、情報公開、環境教育の必要性などを「釧路湿原自然再生の10の原則」の中で明記し、主要施策の一つとして「持続可能な利用と環境教育の促進」を位置づけています。
釧路湿原 自然再生普及行動計画
釧路湿原の自然再生を、地域や市民の理解、支持、協力、参画のもとに効果的に進めていくための自然再生協議会としての取組み方針をまとめたものです。
湿原の価値をより多くの人に伝え、湿原と人々のつながりをさらに広げ、湿原を活用した環境教育や自然再生への参加が地域に根付いていくことを目標としています。
2005年6月に作成され、5年毎に評価、見直しが行われています。現在は第4期行動計画として、取組みが行われています。
行動計画は「できる者」が「できること」から取り組むことを原則として、次の取り組みの柱としています。
●市民参加・環境教育とともに
・湿原を身近に感じる
~人々が湿原とつながる~
・湿原と地域に学ぶ
~学校や地域での学びの幅を広げる~
・湿原のために行動する
~保全や再生に関わる人・機会を増やす
●湿原とともに暮らす未来に向けて
~地域への貢献~
事務局は環境省釧路自然環境事務所が担い、通称「再生普及行動計画オフィス」として活動しています。
再生普及小委員会
釧路湿原自然再生協議会には、7つの小委員会が設置されています。「再生普及小委員会」は、自然再生の各実施計画を専門的に取り扱う他の小委員会とは別に、自然再生事業全体をとおして市民参加や環境教育を進めて行く取組の立案や推進方策を協議する場として設置されています。
自然協議会構成員のうち希望者が参加し、事務局は環境省釧路自然環境事務所が務めています。
※自然再生協議会構成図(クリックで拡大)
《行動計画策定の経緯》
釧路湿原自然再生協議会の発足前に活動していた「釧路湿原の自然再生の係る市民参加・環境教育等の推進方策調査懇談会」(2002年9月~2003年6月)は、国内外の事例調査と会合を経て、これらのあり方を検討し、「市民参加・環境教育の推進に関する10の提言」をとりまとめ、公表しました。この実現に向けて、自然再生協議会では再生普及小委員会に「行動計画ワーキンググループ」を設けて検討し、市民参加や環境教育を進めるための5カ年の「行動計画」を2005年6月に作成しました。
市民参加の機会づくり~ 再生事業地見学会の開催
地域・市民のみなさんを対象に、楽しみながら再生事業についての理解を深めていただけるよう、事業地ごとに毎年多様なイベントを開催しています。
●イベントの概要
旧川復元現地見学会・湿原再生現地見学会 紹介動画
(制作:北海道開発局 釧路開発建設部 治水課)
●イベントの様子(2022年度)
若者Yo!雷別へ植樹に行こうYo!
6/
26
日
参 加:9名
場 所:雷別地区自然再生事業地
(標茶町雷別/根釧西部森林管理署293林班)
主 催:森林再生小委員会
事務局:釧路湿原森林ふれあい推進センター
植樹の様子
釧路地域に居住する若者を対象として、広葉樹の森林づくりや森林再生ボランティア活動等について情報発信するとともに、「雷別地区自然再生事業地」での植樹体験を通じて、森林再生等の取組みに興味を持っていただくことを目的に今回初めて開催しました。
当日は、若干の若い方と森林再生ボランティアの参加があり、広葉樹4種(ミズナラ・ヤチダモ・ハルニレ・カツラ)計60本の植樹と共に、植栽木を野生生物の食害から守るため、保護管(ツリーシェルター)の被覆を行いました。
若い方は、経験豊富な森林再生ボランティアからアドバイスや説明等を受けながら、熱心に植樹作業に取り組んでいました。
保護管組立ての様子
保護管設置の様子
昨年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で開催を中止しましたが、今年度は、天候にも恵まれ、無事開催することができました。
植栽箇所は、笹の根が密集していて植穴を掘るのに苦労された方が多かったようです。また、炎天下だったため、午後からの保護管組立て・設置作業は早めに切り上げました。
初めて植樹を経験した若者からは、「貴重な経験をさせてもらって良かった。機会があればまた参加したい」「シカは、木の種類を問わず食べている印象があります。その中でも特に好む種類があるのは勉強になった」等の感想があり、森林のこと、環境のことに関心がある若い人がいることを実感しました。
来年度の実施に向けては、募集方法を再検討し、より多くの方々に森林再生等の取組みについて興味を持っていただけるような機会を提供したいと考えております。
幌呂地区湿原再生現地見学会
7/
30
土
参 加:14名
場 所:幌呂地区湿原再生区域(鶴居村 下幌呂)
主 催:湿原再生小委員会
事務局:釧路開発建設部治水課
釧路湿原では、過去に損なわれた湿原環境を取り戻す取組である「自然再生事業」が行われています。そのひとつとして「未利用地を湿原に再生する」取組が行われている鶴居村の湿原再生現場の見学と湿原を代表する植物である「ヨシの移植体験」・「ハンノキ調査」など保全活動を通して、釧路湿原について一般住民に理解していただく見学会です。
見学会では、ヨシの移植、湿原の植物・魚類の観察、泥炭の観察、ハンノキの生長抑制を行うための環状剥皮(巻き枯らし)の体験を行いました。
泥炭の観察
泥炭がいかに多くの水分を含むことが出来ることを確認し、乾燥させた泥炭とのの違いを観察しました。
ヨシ苗の移植
シャベルでで穴を掘りヨシの苗を移植しました。泥炭の地面は植物が分解されず堆積しそれが圧縮され、穴を掘るのは大変です。
ハンノキ環状剥皮
増加したハンノキを枯死させるために樹皮を剥ぎました。樹皮にキズがない木は剥ぎやすいです。
今年の「幌呂地区自然再生」現地見学会は、参加者が少なかったのですが、500本のヨシの苗を植え、湿原植物・魚類の観察、ハンノキの環状剥皮を実施し、参加者の皆様には有意義な体験をしていただけた見学でした。
参加者からは「植物の種類で湿原再生の進み具合がわかるということがおもしろいです」「泥炭を踏んで歩いた感触が面白かったです」などの感想をいただきました。
久著呂川自然再生見学ツアー
9/
木
参 加:6名
場 所:久著呂川の土砂流入対策箇所等
(鶴居村・標茶町)
主 催:土砂流入小委員会
事務局:釧路総合振興局 釧路建設管理部
久著呂川の上流、中流、下流を順番に巡り、自然再生の取り組み(久著呂川の土砂対策)を学ぶ“久著呂川自然再生 見学ツアー”を開催しました。これは釧路湿原への土砂流入対策の現状や水辺環境の回復状況について、見学やモニタリングを体験するツアーです。上流域に生息する魚類や水生昆虫を観察しながら自然の状態に近い河川の特徴を理解して頂きました。その後、河道の安定化対策を実施した区間において川に入って箱メガネ、タモ網を用いて川の中を泳ぐ魚類などの観察、捕獲を行う等、水辺環境の回復状況を体験して頂きました。昼食場所に向かう途中では水辺林・緩衝帯の予定地を見学し、その後、下流域の河川沿いの土砂調整地、排水路合流部沈砂池、湿原流入部の土砂調整地(人工ケルミ)の整備状況、土砂の堆積状況を見学しました。
今回の見学ツアーは、コロナ感染症の影響により2年ぶりに開催できました。天候にも恵まれた中、実際にヤマメなどを観察しながら上流域の特徴を学び、また川の中に入り実際に泳いでいるフクドジョウなどの観察や底生生物の捕獲を行う体験を通して水辺環境の回復を実感させ、対策による効果を少しでも感じていただくことができました。移動中の車内でも見学箇所の説明を通して、久著呂川の土砂流入対策について理解を深めていただけたと感じています。
参加者のアンケート結果より、見学ツアーの満足度が高く、また今後釧路湿原の保全や再生活動に関わりたいという参加意思が高いことが分かりました。このことからも見学ツアーは、久著呂川の土砂対策事業の普及啓発を行う上での重要な取り組みの一つであることが分かりました。
令和4年度 ツアーの様子(3:56)
第2回「雷別ドングリ俱楽部」
9/
28
水
参 加:16名
場 所:雷別地区自然再生事業地
(標茶町雷別/根釧西部森林管理署293林班)
主 催:森林再生小委員会
事務局:釧路湿原森林ふれあい推進センター
「雷別ドングリ倶楽部」は、高齢級のトドマツ人工林が気象害によって立ち枯れし、笹地となった箇所が広がっている雷別国有林をフィールドとして、平成19 年7 月から当センターと協働で森林再生(自然再生)等に取り組んでいるボランティアの方々の集まりです。
今回の活動は、雷別地区自然再生事業地の笹地10で、郷土樹種である広葉樹4種(ミズナラ、ヤチダモ、ハルニレ、カツラ)計100 本の植樹と共に、植栽木をエゾシカやエゾユキウサギの食害から守るため、保護管(ツリーシェルター)の被覆を行いました。
植樹の様子
保護管設置の様子
新型コロナウイルス感染防止対策を万全に行い、活動を実施しました。
皆さん手慣れた様子で作業を進められ、予定より早く保護管の設置作業まで完了しましたが、笹の根が密集していて植穴を掘るのに苦労された方が多かったようです。
参加者からは、「植樹をすることによって自然が再生できることが非常にうれしく思います」「新しい参加者が居たように思うので広がりを感じました」「自然に親しみ楽しい時を過ごせました」等の感想があり、この活動に満足され、森林再生の取組みへの意欲をより高めていただけたようです。
今後も「雷別ドングリ倶楽部」と協働し、活動を継続していきたいと考えております。
茅沼地区旧川復元現地見学会
10/
1
土
参 加:20名
場 所:川上郡標茶町下オソベツから川上郡標茶町茅沼
主 催:河川環境再生小委員会事務局
事務局:釧路開発建設部治水課
自然再生事業を広く一般市民に理解してもらうため、「茅沼地区旧川復元現地見学会」を開催しました。例年は、Eボート(10人乗)で釧路川を下りましたが、今年は10艇のカナディアンカヌー(3人乗)でそれぞれのガイドさんの説明を聞きながら、標茶町下オソベツをスタートし標茶町茅沼まで下りました。途中、釧路川の直線河道と復元河道の切替部で下船し湿原の植生、土砂の堆積状況を観察し、復元の効果を体感していただきました。
成育している植物を観察することで、釧路川の氾濫頻度がわかり、事前に掘っておいた堆積土を見ることにより湿原中心部への土砂軽減の効果を知ることが出来ました。
釧路川(標茶町下オソベツ)をスタート。
今年は、雨の日が多く川の水量も多かったです。
途中下船した箇所で湿原植生や堆積した土砂の観察をしました。
釧路川で活動しているカヌーガイドさんの説明は、釧路川や釧路湿原の動植物について詳しく、参加者は興味深く聞いていました。そして、当日の天候は10月に入っての開催にもかかわらずとても暖かく、吹く風さえも気持ちのいい日で、カヌーからはタンチョウ、オジロワシ、立派な角の雄シカなども見ることも出来ました。参加者からは自然再生箇所の植生についての説明が好評でした。参加された方々に満足していただけた見学会となったのでなないかと思っています。
企業との協働による広葉樹の森林づくり
10/
4
火
参 加:11名
場 所:雷別地区自然再生事業地
(標茶町雷別/根釧西部森林管理署293林班)
主 催:森林再生小委員会
事務局:釧路湿原森林ふれあい推進センター
この活動は、札幌市に支店を置く企業が、社会貢献活動の一環として、平成29 年度から当センターと協働し、雷別地区自然再生事業地で行っている自然再生の取組みで、今回で第4 回目の開催となります。
当日は、雷別地区自然再生事業地の笹地10で、広葉樹4種(ミズナラ、ヤチダモ、ハルニレ、カツラ)計140 本の植樹と共に、植栽木を野生生物の食害から守るため、保護管(ツリーシェルター)の被覆を行いました。
植樹の様子
保護管組立ての様子
保護管設置の様子
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、日程を変更し、少人数に抑えての活動となりました。
当日は、雨の予報があり、いつ本降りとなってもおかしくない状況の中での森林づくり活動となりましたが、参加された方々のご協力により無事終了でき、大変感謝しております。
参加者からは、「天候は良くなかったが、楽しく植樹できました」「今回の体験を通してSDGsへの関心が高まりました」「植樹した木の成長が実感できました」等の感想があり、この活動に満足され、森林再生に対する理解をより深めていただけたようです。
企業側の社会貢献活動への意欲は高く、今後も活動を継続していきたいと考えております。
市民講座「釧路湿原を学び、釧路湿原を歩き、
地域の歴史に触れる!釧路湿原の 『すごい!』を体験しよう」
第1回
10/
9
日
10/
15
第2回
土
10/
22
第3回
土
参 加:10名
場 所:釧路地方合同庁舎(第1回)
温根内周辺フィールド(第2回)
サルボサルルン展望台、標茶町博物館(第3回)
主 催:再生普及小委員会
事務局:環境省釧路自然環境事務所
一般市民の方に釧路湿原の価値や魅力を改めて見つめていただく機会として、昨年度に引き続き全3回からなる連続講座を開催しました。
第1回講座において、釧路湿原と市民の関わりや豊かな自然、またそうした恵みとともにあった私たちの祖先の暮らしについて学んだ後、第2回講座・第3回講座で普段は立ち入ることができない湿原内部や、湿原周辺にある竪穴住居跡やチャシ跡などを訪問し、湿原の「すごい!」を体験しました。
第1回講座(座学)
第2回講座(温根内)
第3回講座(サルボ・サルルン展望台)
昨年度同様、募集人数を越える応募がありました。湿原を学び、体験できるこうした機会提供への期待が大きいことを感じます。
座学とフィールド訪問より構成する本講座は、学びと体験のバランスが良いと感じます。また、複数講師によりご担当いただくことで、より多様な視点から湿原を考え、体験いただく機会を提供できたと思います。
令和4年度 市民講座の様子(4:52)
参考)令和3年度 市民講座の様子(6:55)
「水・物質循環」現地見学会
11/
15
火
参 加:13名
場 所:阿寒郡鶴居村キラコタン岬、新釧路川横堤
主 催:水循環小委員会
事務局:釧路開発建設部治水課
釧路湿原の北に位置するキラコタン岬で湿原に流れ込む湧水や、湿原の水の出口となる釧路川下流を見学し釧路湿原が形成維持される仕組みや自然再生事業について学ぶ見学会を開催しました。釧路湿原の下流の水の出口となる横堤という川をせき止めるような施設は、ドローンを使い上空から大雨の後などの市街地へ流れ込む水を抑制できる効果のある事をみていただき、キラコタン岬では、湿原への水の流出入、土砂の流入、泥炭と湿原の関係など説明を聞きました。皆さん少し風が強く寒い中、きれいな景色をバックに熱心に説明を聞いていました。
キラコタン岬からの釧路湿原の景色を体感
降水から約50年経過して湧出していることを説明
上空から横堤を見て、治水効果を説明
当日の朝はマイナスの気温で最初の釧路川横堤では、海からの風でやはり寒かったです。しかし天気は良く晴れていて、後半のキラコタン岬は歩いたこともありそれほど寒さを感じなかったです。参加者のほとんどがキラコタン岬に行きたいという方が多く、参加して専門家からの説明、ドローンからの横堤や湿原の映像、キラコタン岬からの景色・蛇行したツルハシナイ川など、想像していた以上に満足の声をいただきました。
キラコタン岬では、もう少しゆっくりしたかったとの意見もありました。コロナ禍で、半日の行程で見学会を開催していますが、今後は感染状況を判断して、お弁当を食べるなどもう少しゆっくりできる行程を組みたいと思います。